あん子すとーりー MOKOMO 作 page 1/1
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私はあん子。
なんでこんないかにも和菓子的名称なのかを知りたいのならば親に聞いてください。
そして返ってくる返事はいつも決まって「好きだから」というでしょう。
自分の趣向を子供の正式名称にするとはいかがなものか。
もうやめて。こんな名前はいや。
今、目の前のショーケースにあるあんころもち達にも消えてもらいたいと切実に願っている。
販売元の和菓子の「道楽」に申請した。アンケートに書いた。
一向にこの店No.1商品は消えないのでじっと睨んでやっている。怨念混りで。
商店街の店先でショーケースに顔を押しつける私。
中学生にもなって制服のままこんなことをするのには気が引ける…といえば、その通りなんですが。まあその辺のことは寛容な人生の棚に上げておくとして―――。
道行く人はこのショーケース張り付き女をちらと見ては見なかったことにする。
やーね。あの子、ショーケースのガラスに顔押し付けてるー。
うわっ。まじかよ。なんだ?あの女は。
なにあの子ー。かわいー!
なんだね?あの貼り付き女は。
などなど、世間の目も痛いですが。
ふん、夕方のいつもの風景さ。とか強がってみる。
ショーケースの中、あんころもちの向こう側からこわーく私を見つめる"道楽"従業員のおばちゃん。
縮むあんころもち達多数。
あんころもちを見るあん子。
視線対決は止めにして丸めた背を伸ばした。いや、べつに負けたとかそういうのではなくて。
「えっと、…あんころもち」
いつものことではあるが少し躊躇してしまった。三本指を立てた。
「みっつください」
「はいよ、あんころもち三つね、三百十五円だよ」
道楽側は笑顔だった―――。ふ、余裕の笑みか。
「はい」
こちらも笑顔で返した。
「まいどあり。いつもありがとね。あん子ちゃん」
あんころもちを買ったあん子。"あん子ちゃん"は余計!と心の中では一応言っておく。
無心に買って帰っていたけど
最近、親のマインドコントロールが解けてきたように感じる。
なんで親のために毎日買って帰らなきゃいけないんだ。
そろそろ潮時か。反乱か。反逆か。
まあ、どれでもいいけど。
おわり
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