Rozen Maiden Gedachtnis  山燕 作  page 1/3




 序章

ジャンク・・・私はジャンクだった・・・。
そう、嘗ては・・・。
でも今は違う・・・。
お父様は私に与えてくださった・・・。
ローザミスティカをこの私に・・・。
私を見捨てなかった・・・。
私にもお父様に愛される権利をくださった・・・。

私はローゼンメイデン第一ドール水銀燈。

他のどのドールよりも気高く、強く、そして美しい・・・。
アリスになるのは私・・・。
お父様に愛されるのはこの私・・・。


私は眠っている間に多くの夢を見た・・・。夢は私に教えてくれた。人工精霊のこと、他のドールのこと、ミーディアムのこと、そしてアリスゲームのこと・・・。

私はその夢と夢の間にお父様を思い出す・・・。
優しく全てを包んでくれる光のヴェール・・・。

しかし私はいつも遠くで見るばかり・・・。
お父様の腕の中には違うドールがいた・・・。
真っ赤なドレスに包まれたドールが・・・。

・・・・真紅・・・・。

私は忘れない・・・。貴女のしたことを。
私は負けない・・・。貴女にだけは。
貴女のローザミスティカは私が・・・!



 第一章  人間 〜Ein Mensch〜

・・・・夢が途切れた。
体に力が漲っていく。
両翼を高らかに開き、私は目覚めた。
「・・・君は・・・」
目の前にいる男の手には私の螺子が・・・。どうやらこの男に螺子を巻かれ私は目覚めたようだ・・・。この男が私のミーディアム・・・。
私の初めての・・・。

ミーディアム・・・。
私たちローゼンメイデンは螺子を巻いた人間と契約をしてその力を得る。
その人間の持つ“無意識の海”から力を吸い上げドールの力とする・・・。
ローゼンメイデンはそうして得た力を使いアリスゲームを戦う。

しかしそれでいいの?
私にミーディアムなんて必要かしら?
人間から借りた力なんて使わなくとも私はアリスゲームに勝てる・・・。
私は他のドールよりも優れている。
だからミーディアムなしでも戦える。
そう例え私の体が創りかけだとしても・・・。
いや、だからこそ私はお父様に証明しなければならない。

「君、動けるのか?」
「・・・。」
「・・・凄い、信じられない。どこの国のものかは知らないが、世界にはこんな素晴らしいものが存在するのか・・・!」
何この男?何でこんなに喜んでるの?
「凄い、まるで生きている様だ・・・。」
その男の手が私の頬に触れようとした。
「触らないで」
私はその男の手を振り払う。
「ッ!・・・喋ることも出来るのか!?」
手をはたかれたことなど気にも留めてないようだ。
「君、名前はあるのかい?」
「・・・私は水銀燈。ローゼンメイデン第一ドール。」
「水銀燈・・・変わった名前だね。」
「・・・。」
「ローゼン・・・メイデン・・・。ドイツ語か・・・。」
「ふぅん・・・。なかなか詳しいのね。」
「ま、まぁドイツ語は勤めの関係上必要な語学だからね。」
照れたようにその男は髪をかきあげた。
「あっ、そうだ。君にだけ名乗らせて自分が名乗らないのは失礼だよね。」
「別にぃ私はあなたの名前なんて・・・」
どうでもよかった・・・。
私は決めた。この先あるであろうアリスゲーム。私はミーディアム無しで戦うと。そうしなければ私は他のドールたちより劣ってることになってしまう。それだけは許せない・・・。
だから私はこの男と契約を結ぶ気なんてなかったし、どうでもよかった。
しかし、この男は私の言葉が終わる前に
「私は橘廉太郎。よろしく。」
「あなたこそ変わった名前ねぇ・・・。」
「そうかい?」
「・・・。」
これ以上この男と話す必要もない。私にはやることがある・・・。
まずこの時代に私以外のドールが目覚めているかを確認しなければいけない。同じ時代に目覚めていなければアリスゲームは始まらない。
ローゼンメイデンは全部で七体。全てのドールを倒し、ローザミスティカ・・・私たちの命の源とも言うべき物体・・・。これを全て集めることが出来ればアリスになることが出来る。お父様に会える・・・。
「ハハ、まただんまりか。」
男は苦笑いをする。
私は近くにある窓を開けると鞄を持ち外へ羽ばたいた。
目下には広い庭が広がり、手入れの行き届いた芝生。その先に見たことの無い植物が棚に並べられている。
庭を囲う塀の外は見たことの無い木造建築が立ち並ぶ。
「水銀燈、君飛ぶことも出来るのかい!?」
いちいちうるさい男・・・。
「どこかへ行ってしまうのかい?」
「ここにいる意味はないわ・・・。」
「そうかな?君みたいな存在が表沙汰になったら君は無事にはすまないよ・・・きっと。」
「人間は自分の目線の高さでしか世界を見ることが出来ない。私は見ての通り空を飛ぶことが出来るのよ?人間たちに見つかるほど馬鹿じゃないわ。」
「いや、みんないつも空を気にしてるさ・・・。」
「?」
「自分の命に関わるからね・・・。」
「?あなたが何を言いたいのか分からないけど・・・。もし見つかっても私が人間ごときに負けるはず無いわ。」
「そうか・・・水銀燈は強いんだね。」
「そうよ、だからさようなら。」
「待った。」
「何?しつこい男ね。」
振り返ると男の手には見たことの無い物が握られていた。それは黒く光り男が持っているところで曲がっていてその前の取っ手の様な物に指を引っ掛けている。先には穴が開いていて
その穴は私のほうへ向いている。
「これ何か分かる?」
「なぁにぃ?知らないわそんなもの・・・。」
「これは拳銃っていう人間がモノを壊すためだけに作ったものだよ。」
「?」
「ここの引き金を引けば君は壊れてしまうよ・・・きっと。」
「・・・ジャンク。」
「?・・・ジャンク・・・ガラクタ、そうジャンクになっちゃうよ。」
そう言ってその男は私に笑いかける。
「・・・私を脅すつもり?」
「脅すつもりなんてないさ、ただ君にはここにいて欲しい。」
何なの?この男は。何考えているのか全然わかんない・・。
「さ、こんなところにいつまでもいると、目立つさね。早く部屋の中へ。」
「・・・フン。」
私は再び男の部屋に戻った。
あんなモノで私が壊されるなんてとても思えない。とても思えないけど・・・。
もしこの男の言うことが事実だったら・・・。この男は何を考えているのかわからない。
「いいわ。どうせどこか塒となる場所は必要だから。あなたがどうしてもって言うんなら、暫くはここを使ってやってもいいのよ?」
「そうか。なら決定だね。」
「一体何が嬉しいのかしら?こんな不気味な人形持っていたって仕方ないでしょう?」
「不気味だなんて、そんなこと言うもんじゃあない。君のような存在がいるってことだけでこの腐りきった世の中には大きな意味がある。それに君は美しいしね。」
「・・・馬鹿じゃない?」
「ハハ、確かにね。」
・・・こいつ本当にただの馬鹿なの?
私はまだ“人間”という生き物に対する知識が少なすぎるみたいね・・・。
男の部屋には小さいテーブルとそれに合わせた椅子。大きな本棚には大量の本が並べられている。奥にある机はお父様がいつも座って作業していた机に似ている。
扉のようなものには何故か薄い紙が貼ってある。
私が部屋として知っているのはお父様の部屋と・・・あの“サラ”とかいう真紅のミーディアムだった子供の部屋・・・。
この部屋の造りはどことなくあのサラの部屋に近いが、何かが違う・・・。雰囲気そのものが違うような気がする。しかしこれは私にとっていいこと・・・。あの部屋には忌々しい記憶しかない・・・。思い出すだけで私は私自身の怒りで燃えてしまいそう・・・。
「悪いね、狭い部屋で」
「別にぃ・・・。」
「家自体は大きいんだけどね、どうも私には大きな家はあってないようだ。狭いとこの方が落ち着くんでね。だからわざわざ一番狭い部屋を自室にしてもらったのさ。」
「そんなこと訊いてないわ。狭いにしろ広いにしろ、私はここをそのうち出るんだから関係ないわ。」
「そうだね、私もそのつもりさ・・・。」
「?」
「あぁ、さっきも言ったが外には出ないほうがいいよ。」
「あなたもしつこい人ね・・・。そんなに私が気に入っちゃったのぉ?」
「そうかもな。」
からかい甲斐の無い人間・・・。
「今は国外のものを持っているってだけで罪になるんだ。君は明らかにこの国のものじゃないからね。見つかったら立ちどころに壊されちゃうよ。」
「国?」
「そう、ここは日本だよ。君も日本語話してるじゃないか?」
「時を渡る私たちローゼンメイデンにとって言語なんて観念はないわ・・・。目覚めた場所に順応するのよ。」
「そうなのかい?そうは見えないけど・・・。」
「・・・。」
「場所には順応するけど、時代には順応しないようだね。」
クスリと男は笑う。
「フン、別に私は今のこの時代に順応する必要はないわぁ。」
「そぅ。」
こんな話なのにこの男は何が嬉しいのかしら?さっきからヘラヘラ笑って・・・。
人間ってみんなこうなの?
「なぁ、君は誰によって産み出されたんだい?“時を渡る”っていつごろからなんだい?」
「さぁ、ただ私をお作りになったのはお父様・・・。」
「お父様・・・そうか君からしたら作り手は親みたいな存在だからね。成る程、お父様か・・・。」
「何がおかしいのぉ?」
私はお父様を侮辱されたと思い、男に対する語尾が強くなった。
しかしこの男はまったく気にしないで
「いや、君もそんな顔するんだなぁって、お父様のこと話していた君はとても嬉しそうだったから。」
「・・・そんな顔?」
「とても優しい顔を。」
「バカじゃなぁい・・・。」
私はそんな顔をしていたのだろうか?
「そのお父様はどうしているんだい?」
「・・・お父様は・・・。」
「?」
「お父様はアリスとしかお会いにならない・・・。だから私はアリスにならなければならないのよ・・・。」
「アリス・・・。その“アリス”にはどうしたらなれるんだい?」
「それは、全ての・・・」
私は一体何を話しているの!?こんな話この男に話したって意味ないじゃない・・・。私は人間と契約はしない・・・。だからこんな話はする必要がないわ。
「・・・あなたには関係ないことよ。」
「そうか、それは残念。」
本当にそう思っているのかしら?
「私に出来ることがあればしたいと思ってね。」
「?」
「君が“アリス”になる手伝いが出来ればさ、と。」
「あなたに出来ることなんて何もないわ。」
「・・・そう、かもな・・・。」
珍しく言っていることと顔の表情があっているじゃない・・・。
「しかし残念だ。私もその“お父様”にお会いしたかったよ。」
「あなたがぁ?アハハ、バカじゃなぁい?あなたみたいな人間にお父様がお会いするとでも思っているの?」
「君がアリスになり、会ったら紹介してくれよ。」
この人間は・・・私の話を聞いていたのかしら?


これが私と私の螺子を初めて巻いた人間との出会いだった・・・。
私は暫くこの人間、“廉太郎 ”の部屋にいることにした・・・。この世界に出て三度目の目覚め。いくら関係ないとは言えある程度人間のことを知っておく必要を感じていた・・・。
知っておいて損はなさそうだわ。他のドールがこの時代に目覚めているかはメイメイとnのフィールドで暫くは探そうかしら。







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