雑踏のむこう MOKOMO 作 page 1/2
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一
煌く太陽の下、街路樹の横にポッカリと開いた穴。その、明るい陽が射し込む階段を暗闇の方へ下っていく。
時折、乾いた風が僕の体を通り抜ける。風は僕を地下鉄に乗せるのを拒むように向かい風になって吹き寄せている。
暗闇から解き放たれた風の行く先には何が待ち受けているのか。そして、歩む道の先にはどんな未来があるのか。そもそも未来なんてないんじゃないのか。
電車の座席に座るとここまで歩いてきた疲れがぐっと押し寄せてくる。目を閉じると幾らか楽になった。
暗闇の中で次の駅を知らせるアナウンスが聞こえてきた。どうやら寝入ってしまったらしい。目を開き、辺りを見回す。
酔いつぶれたホームレス風のおじさんが車両の隅で座席を占領するように寝ている。反対側には会社帰りのようなOLや塾帰りと思しき中学生が寝ている。
視線を元に戻すと、向かいの席には茶色い猫が丸くなって僕を見つめている。こんなところに猫が居るはずがない、まだぼんやりと寝ぼけているらしい。また目を閉じた。
どれくらいの時間が過ぎたのか、もうわからない。知ろうともしない。時間なんて幾ら過ぎようがどうでもいい。
夢はいつか終わる。だけど、ずっと見ていたい気分になる。
このまま夢の世界にいてはだめなのは知ってる。夢は夢なのだから。
それでも見ていたいのが夢。このままどこかに連れて行ってくれ、電車。ずっと、このまま、ずっと。
電車の通路を歩いて来る鈍い足音がする。錯覚かもしれないが、そうは感じられない。思っていることに応えるようにそれは迫ってきた。
こういうときは何事も絡まないのが最善の方策だ。よって、寝たふりをしよう。
「あの、すみません」
話しかけてきた。女の人のようだ。
「私、・・・君のこと前々から知ってたような気がするんです」
見ず知らずの人にどんな台詞をぶつけて来るのかと思っていたが・・・。なにか裏があるのだろう。
「…。」
どうやらあきらめたらしい。東京は怖いところだと昔から言われているがそれは本当らしい。こんなところで絡まれたらこの先どうなるかわからない。
(そう、東京をさまよえば何か将来につながるものが見つかると思っていた。)
「でも、勝手な思い込みですよねこんなのおかしいもん。見ず知らずの人にいきなり話しかけて。」
まだ諦めがつかないのか。だが、そのとおりだ。なんだ、ちゃんと分かっているじゃないか。
(未来の自分の将来を見つめたときに自信を持てるものが何一つ見つからなかったというただそれだけのことだったのかもしれない)
「きっと迷っちゃったんだよねそれでなきゃこんなこと」
(そう、僕は迷っているのかもしれない。コンクリートに埋め尽くされた無機質の大都会に何を求めて来てしまったのだろう)
「ごめんなさい」
(この人は今の自分と少しだけ似た状況にいるのかもしれない。)
僕は目を開いた。
「行くな」
助けるつもりでこんな言葉を発したのか、自分が救われたいからなのか、相手がどういう人物なのかも全くわからない状況でどうしようというのか、そんなことはどうでもよかった。
ただ、この人との出会いを大切にしたかっただけなのかもしれない。
「え?」
「僕も迷ってしまった。今は、君を信じてみることにする。」
彼女の表情には驚きと微笑が混在していた。
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