Rozen Maiden Gedachtnis  山燕 作  page 2/3




 第二章  日々 〜Jeder Tag〜

「水銀燈、これ口に合うかわからないけど・・・近所のおばあちゃんに貰ったんだ。」
「・・・なぁにコレ?真っ黒よ・・・。」
「これはオハギっていう日本のお菓子さ。」
「手づかみ?」
「そうさ、このまま掴んで・・・ん、美味い。」
「・・・。」
「ささ、一口さ。ただでさえ水銀燈は普段食べないんだから。」
「ローゼンメイデンは食事をとる必要がないのよ・・・前に言ったでしょ。それに誇り高いローゼンメイデンが手づかみでものを食べるなんて考えられなぁい。」
「じゃぁ私が食べさせてあげよう。」
「ちょっ、いいわよぉ。」
「はい、口開けて。」
「・・・っ、わかったわよ。食べるから止めなさい!」
「じゃあせめて持つところを和紙で包んであげるよ。はい。」
「・・・・。」
「どう?」
「・・・!何よこれ、甘いだけじゃなぁい・・・しかもコレは・・・。」
「もち米さ。」
「もち米ぇ?お米なのぉ?信じられなぁい。」
「不味かったかい?」
「・・・不味いとかそういう問題じゃないわ・・・本当、この国の食べ物は信じられないものだらけね・・・。この前の“スシ”なんて食べられたものじゃないわぁ・・・。」
「まぁ、そう言うなね。これがこの国の文化なんだ・・・。私たちはこの素晴らしき文化を守らなければならない・・・守りつつ他の国の文化も取り入れ、より一層素晴らしい文化を築くべきなんだ・・・。」
「興味ないわぁ。」
しかしそう言う男は珍しく浮かない顔をする・・・。
「・・・どぅしたの?」
「・・・なのに、それなのに・・・私たち人間はお互いに争うことしかしないっ!自分たちで自分の首を絞め続ける・・・!」
「・・・。」
「だけど水銀燈、君はどこか遠くの国で作られたのにも関わらず、日本人である私のところに来た。そして私と君は争うことはない・・・。これは今の時代に生きる者たちにとってとても大きなことなんだ。」
「・・・あなたが何を言っているのか全然わかんなぁい・・・。だけどこれだけは言っておくわ、私に何か期待しても無駄というものよ・・・。」
「そんなことないよ、だって君は最高の少女“アリス”になるんだろう?」
そう言って男は微笑む。本当やりにくい人間・・・。
「・・・口。」
「えっ?」
「・・・口、付いてるわよ、黒いの・・・。」
「・・・あっこれは失礼。」



 またある日・・・。

「じゃ、私は学校に行ってくるので、その間私の部屋にいてくださいね。」
「・・・学校?」
「人間が様々な事象を学ぶ場所さ。」
「・・・ふぅん。」
「じゃ、行ってきます。くれぐれも外には出ないように。」
「分かってるわよ、さっさと行きなさぁい。」
男は私に微笑むと部屋から出て行った。
・・・男がいなくなったこの部屋は広く感じる。壁にかかった時計の秒針の音が空間に響く・・・。こんなとき私はnのフィールドに行き他のドールが目覚めてないか探すのだが一向に見つからなかった・・・。メイメイからもなんの情報も無く、いよいよこの時代に目覚めた薔薇乙女は私だけという推測が色濃くなってきた・・・。
ならもぅ眠りについてしまおうかしら・・・。そうも思ったが、私は眠りにはつかなかった。まだ、もぅ少しぐらいここにいてもいいわね・・・。
今日はnのフィールドには行かない、どうせ行ったところで何もないなら・・・。
ふと私は本棚に目をやる、見たことのない文字だが読める。男がいつも熱心に読んでいる本。私が鞄に入った後も読んでいる。前に一度そんなに面白いものか訊いてみたことがあった。

「ん〜面白いかと訊かれたら、決して面白いものではないよ。ただ、これが今私が出来る精一杯のことなんだ。」
男はこう続けた。
「人間はいつか必ず死ぬ。この限られた命をどう使うかは人其々と言ってしまえばそれまでだ。しかしだからこそ、限られているからこそ、その過程はとても大きな意味を持つんだと思う。だから私はこの命が尽きるその時まで私に出来る精一杯のことを今しておきたいんだ。死んでから後悔するのはごめんだからね。」
「・・・馬鹿じゃなぁい。死んだら何も残らないわよ・・・。生きている間いくらもがいたって、死んだら同じよぉ・・・。」
「そうかもしれない。だけど・・・。」
「・・・だけど?」
「水銀燈は私のことをずっと覚えていてくれるだろ?なら意味はあるさ。」
「・・・。」
「ん?」
男は私に微笑む。
「・・・本当に・・・おばかさんね、あなた。」

私はてきとうに目に入った本を手に取った。あの男が何を読んでいるのか少しは興味があった。本には「外科正宗」や「医方考」「雑病証治類方」など読めても意味が分からないものが多かった。他にも「軍二於ケル医学書」や「帝國軍事医療之書」など・・・。どれも確かに面白そうなものではなかった。その中にあった「人体」という本を開いてみた・・・。
何よこれ・・・?これは人間の設計図なのかしら?汚らわしい・・・。
しかしこれはなかなか興味深い本だった。つい読みふけってしまった・・・。

「ただいま。ってアレ?水銀燈、君何を読んでるんだい?」
「・・・あなたがいつも熱心に読んでいる本よ。」
「そんなものつまらないだろぅ?」
「・・・そぅねぇ、でも人間のことがよく分かったわ。」
「あぁ、表面的なことはその本で理解出来よう。」
「表面的?」
「そうさ、人間という生き物はそんな本では語りつくせないさ。むしろ内面的、そうこっちの構造こそ人間の本質ともいえる。」
そう言って男は胸に手を当てる。
「こっち?」
「心さ。君もそれが知りたくてここに残っているんだろ?」
「・・・それについての本はないの?」
「あるはずが無い。あってはいけない本さ。」
「・・・あなた、言うことがいちいち胡散臭いのよ。」
「そうかい?」
「そうよ・・・。」
「ハハ、以後気を付けるよ。それにしても水銀燈が読書だなんて・・・。」
「なによ?何か文句でもあるわけぇ?」
「いや、滅相も無い。しかしここにある本は少し専門的すぎて分からないこともあるんじゃないかい?もしあったら遠慮しないで訊いてくれよ。」
「・・・別にぃ。水銀燈にわからないとこなんてないわぁ・・・。」
「じゃじゃ、この栞が挟まっているところは何かな?」
「・・・。」
「ん〜、確かにこの部分は重要且つ難しいね・・・。」
「・・・。」
「ここを理解しなければ先に進むのは厳しいかな?」
「・・・い、いいから早くその部分を説明しなさぁい・・・き、聞いてやってもいいのよぉ?」
「かしこまりました。」
「な、何がおかしいのよ?」
「いいや、別に。」
「・・・フン。」



またある日・・・。

「はい、水銀燈。」
「今度は何を持ってきたのぉ?」
「そんな顔しないでほしいな、今日のはきっと気に入るって。」
この男は私にいつもこの国の食べ物を食べさせようとする。
「言っているでしょ?ローゼンメイデンに食事はいらないって、何度言わせる気なの?」
「生憎私は“おばかさぁん”だからね。」
「・・・からかっているの?」
「これは失礼。兎に角食事はいらないといっても食は人を潤すんだ、“食”という字は人を良くすると書くからね。」
「・・・おばぁちゃんが言ってたの?」
「そぅ、おばぁちゃんが言っていた。」
「・・・。」
「まぁそんなことはいいから食べてみてよ。今日はお茶もあるよ。」
「お茶?」
「ほら。」
「・・・!?何よこれ?緑色じゃなぁい・・・。」
「?そりゃ緑色だよ。緑茶だもん。」
「・・・。」
「お茶と併せて食べるんだ。」
「・・・じゃぁ頂いてみるわ。・・・・・。」
「どうだい?」
「・・・まぁまぁね・・・。」
「おっ!?」
「何よ?」
「そんな評価を頂いたのは初めてだからね。」
「・・・この“緑茶”とかいうのはともかくこっちの黒いのは・・・。」
「それは“ようかん”って和菓子だよ。」
「・・・ヨウカン・・・。」
「正しくは“芋ようかん”。」
「どっちだっていいわぁ。」
「まぁ兎に角これが水銀燈のお口にあったってことが分かったから、明日から毎日買って来るよ。」
「ちょっ、そんなにいらないわよぉ・・・。」



またある日・・・。

「・・・なぁ水銀燈。」
「・・・なぁに?」
男に“学校”というものがない日は私たちは男の部屋で本を読みふけっている。
「君さ、私のことなんて呼んでいるんだい?」
「はぁ?」
「いやさ、一度も名前で呼ばれたことないなぁって。」
「・・・なぁにぃ?名前で呼んで欲しいのぉ?」
「あぁ。」
「・・・。」
この男には恥らうということはないのかしらぁ?
「じゃぁ呼んでみてくれよ?」
「や、やぁよ。」
「何で?私も水銀燈のことはちゃんと水銀燈って名前で呼んでるじゃないか?」
「・・・。」
「あぁ、水銀燈もしかして君照れてるのかい?」
「なっ!?そんなわけないでしょ!」
「別に照れる必要ないと思うけど?」
「て、照れてなんかないわぁ!あなたの名前が呼びにくいだけよ!!」
「・・・じゃぁ省略して“廉”でいいよ。」
「・・・。」
「友達からもこう言われているんだ。呼びやすいだろ?」
「・・・レ・・。」
「ん?」
「・・・レン。」
「はい、水銀燈。」
・・・私は一体何をやっているのかしら・・・。
でも・・・。
レンは名前を呼ばれてとても嬉しそうだ。
でもそんなに悪いものでもないわね・・・・。



またある日・・・。

レンは私に外出をしてもいいと言った。だがくれぐれも気を付けるようにと何度も何度もしつこく言われた。あと必ず戻ってくるようにとも言われた。
レンは学校に、私はこの時代に目覚め始めて建物の外に出た。
この日本という国は建物がみな低い。私は翼を休める場所がなかなか見つからず飛び続けることになった。
建物という建物は皆木で出来ているようね・・・。レンの家は石で出来ているけど、あれはこの国では珍しいほうなのかしら?
私は色々なものを空から見た。初めて見るこの国の町並みはとても興味深いものだった。
・・・あら?あれは?
珍しく大きな石造りの建物を見つけ、その一室によく見たことのある人間が、レンがいた。どうやらここがレンの通っている学校みたいね・・・。レンの他に知らない人間が2、3人。しかしよく見たことのあるはずのレンの表情は初めて見るものだった。

「なぁお前、また徴兵免れたらしいな・・・。」
「いいよな、お高いとこにいるお人は・・・。なんたって橘様のお坊っちゃんだからな。」
「この研究室の仲間もどんどん戦地に送られている。みんな命がけでお国のために働いているんだぞ!それをぬけぬけと・・・恥を知れ!」
「・・・次は恐らく俺のところに来るだろう・・・。しかし俺はこの国のために学んできた医学が役にたつと勇んで戦場に赴くぞ!どっかの腰抜けにはわからんだろうがな!」

・・・あの人間たちレンのことを嘲っているの?

「橘、お前もこのお国の大事の時に自分が何をすべきかよく考えるんだな!」

その人間たちに罵られている間レンはただ黙って下を向いているだけだった・・・。


「水銀燈?もぅ帰っていたのか、どうだった外は?」
「・・・別にぃ、何とも無かったわ。」
「そっか、あぁほら水銀燈に買ってきたよ、芋ようかん。」
「・・・ねぇ、レンあなた・・・。」
「ん、何だい?」
「・・・いや、なんでもないわぁ・・・。」
「ようかん食べないのかい?」
「・・・食べるわよ。」
「じゃ、今お茶淹れてくるね。」
「その必要はないわぁ・・・。」
「え?どういう・・・」
「・・・。」
「・・・これ、水銀燈が淹れたのかい?」
「・・・そうよ・・・。」
「・・・飲んでもいいかな?」
「好きにしたら?」
「じゃあ頂きます。」
「・・・。」
「これ、紅茶か・・・。凄くおいしい。」
「当たり前でしょう?この水銀燈が淹れたのだもの。」
「・・待てよ?と言う事は・・・水銀燈!君下の階にいったのかい?」
「そうよ、安心しなさぁい。誰にも見つかってないから。」
「そういう問題じゃないよ!もし見つかったら君は大変なことになるって前にも説明しただろう!」
「なっ・・・!そんなに怒ることないんじゃなぁい?」
「今後気をつけてくれ!」
「・・・。」
「あぁ、でも・・・」
「?」
「この紅茶、とってもおいしいよ・・・。淹れてくれてありがとう水銀燈・・・。」
「そ、それぐらいのものならいつでも淹れてやっていいのよぉ?」
「あぁ、じゃぁ今度お茶会でも開こうか?」
「二人だけでぇ?」
「別に私はかまわないさ。」
そう言いいながらレンは優しい笑みを浮かべた・・・。


またある日・・・。

レンは常にこの部屋にいるわけじゃない。朝、昼、夕の食事時には下の階に行って食事を取る。どうやらこの家にはレンのほかにレンの母親と使用人がいるようだ。レン以外の人間は見たことが無いけど・・・。レンは食事が済むと直ぐに「勉強するから」といって部屋に戻ってくる。もっとも勉強といってもこの頃は私とくだらない話をしているうちに夜になってしまう。どうやら私が眠った後に勉強はしてるみたいだけど・・・。一体何時間寝ているのかしら?使用人にも部屋に入らないよう言い付けてあるらしく、私はこの家で存在を隠すことが出来ている。
しかしその日は夕食を取りに行ったレンがなかなか帰ってこなかった・・・。
おかしいわね?いつもならもぅとっくに戻ってきてもいいはずなのに・・・。
暫くすると階下から怒鳴り声が聞こえてきた・・・。
これはレンの声ね・・・。もう一つの女の声は・・・恐らくレンの母親の声。
「何故私の徴兵をまた免除なさったのですか!?」
「あなたは戦争などに行く必要がありません!」
「必要無い訳が無いでしょう!今この国は深刻な人手不足だ、一人でも多くの兵を望んでいる!」
「あなた一人が行ったところでどうこうなる問題じゃありません!!それにあなたは大事な橘家の跡取り、死なせるわけにはいかないのです!」
「死ぬつもりはありません!」
「あなたにその気がなくとも敵は鉄砲を撃ってきますよ!いいですか?もう一度だけ言います。あなたは戦争には行かない。ここで戦争が終わるまでおとなしくしていてもらいます!」
「・・・そんなっ!」
「それがあなたの為でもあるのです。」
「・・・なら、私の気持ちはどうなるんです!?」
「あなたの気持ち?」
「そうです、母上もご存知のはずだ!先日私の親友であった啓太郎が死んだ!」
「ええ、聞いております。八神さんとこのお坊ちゃんがお亡くなりになったと。」
「彼と私は同期の桜、同じ砂を噛んだ仲間でございました。」
「その親友も戦争によって命を落としたのですよ!そんな場所にあなたを送れると思っているのですか!?弔い合戦のつもりなら辞めなさい。犬死するだけです!」
「・・・母上私は啓太郎の敵を打つべく戦場に行くのではありません・・・!」
「ならば何故!?・・・まさか、あなたも毒したこの国の思想に染まってしまったわけではないでしょうね!?」
「それも違います!私は今の軍部の・・・右翼どものやり方に賛同したことなど片時もありません。」
「ならば何故!?」
「母上、どうか私の話をお聞きください。私は戦争を間違ったものと存じております。おぼえめでたき天子様を担ぎ出し、この国を戦いへと導き軍部には大変遺憾を抱いております。しかし、既に戦争は始まってしまっているのです!今この時も国のためと信じ、戦い、傷ついている者たちが大勢います!私が今、真にこの国のために出来ることは何か日々考えていました・・・。私には鉄砲を持って戦う力も無ければ、軍部と衝突する力も無い・・・。私にはもうこれしかないのです。傷つき負傷した兵を助けることしか私には出来ない。しかしそこで助けた命がいつか戦争が終わった日に必ずこの日本国の力となると信じています。だから私は一つでも多くの命を救わなければならないのです!」
「・・・あなたの気持ちはよく分かりました。しかしそれはわざわざ戦地に赴かなくとも出来ることです!」
「・・・戦いで傷ついた啓太郎は軍医不足のため軍医に診てもらえず、その傷がもとで死んだらしいです。」
「・・・!廉太郎さん!」
「母上、私は近々軍に志願書を提出しますので。」
「待ちなさい!廉太郎さん!!」

レンが部屋に戻ってきた。
「・・・水銀燈。」
「・・・あなたも大変ねぇ。」
「聞こえていたのかい?」
「あれだけ大声で話してれば、聞こえないわけ無いわぁ・・・。」
「・・・アハハ、すまんね聞き苦しいものを聞かせちゃって・・・。」
「・・・・。」
「水銀燈?」
「・・・私にはよくわからないわ。戦争って要するに人間たちが戦っているってことでしょう?」
「・・・あぁ、そうだね。醜い同族争いさ。」
「・・・それに勝つとどうなるわけ?」
「さぁ?どうにもならないさ。後に残るのは無残な躯だけ・・・。」
「・・・何でそんな場所に行きたがるのかしらぁ?」
「君が聞いていた通りさ。」
「・・・レン、あなたは壊れた人間を治すことが出来るの?」
「あぁ、それが仕事だからね。君風に言うとジャンクになったものを直す修理屋ってとこかな?」
「ジャンクを・・・直す?」
「そぅ。まぁ“ジャンク”なんて言葉はちょっと悪かったかな?」
「・・・あなたも変わってるわね、そこに行くということはあなた自身も危ないってことなんでしょう?そこまでして何であなたは他人の為に動こうとするの?」
「ん〜。何でだろうな?ただ、黙って見ていられないってだけさ。」
「・・・死ぬかもしれないんでしょう・・・?」
「ん、何だ?もしかして水銀燈、心配してくれているのか?」
「ば、馬鹿じゃない!?別に私はあなたがどこで死のうが関係ないわぁ。」
「そっか。」
「な、何が可笑しいのよ?」
「前にも話したけれど、水銀燈、君はもし私が死んだとしても私のことを覚えていてくれるかい?」
「・・・馬鹿じゃなぁい・・・。」
私のこの言葉をレンはどうとったかはわからない・・・。いつものように微笑むだけだった。
私は本当は何を言ってあげたかったのだろう・・・。
本当に・・・おばかさぁん・・・。







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